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20XX #8

「今から会いに行ってみますか?」
地蔵の晃がこう問いかけた。
「いいのか?ああ。会いたい。例え子供の姿でも、晃は晃だ!第一もの凄く可愛い子供だろうなあ」
裕樹は胸が昂ぶるようだった。さっき過去へ戻る時に見た娘の姿を思い出す。
(娘もそりゃあ可愛かった。大事に大事に育ててきた。こんな親のせいで苦労させたが、今度生まれてきたら幸せになって欲しい)

「晃は今何歳なんだ?」
晃の家へ向かう途中で、裕樹は尋ねた。1番知りたくて、でも聞くのが怖い質問だった。晃は自分の子供と言ってもおかしくない年齢のはずだったのだし。
勇気を出して1度だけ晃に訊ねたら、彼は「20歳」って答えてたけど、絶対に嘘だと裕樹は思った。でも隠したい晃の気持ちを汲んでそれ以上は追求しなかったのだ。
晃の地蔵は歩きながら淡々と答える。
「ええと…。貴方が死んだ時、まだ18歳でした。貴方と知り合う少し前に誕生日を迎えたばかりでした」
「ええ!?」
裕樹は驚いた。
「18歳だって?じゃあ高校は?」
「何を今更。彼の様子からして高校に通ってる風に見えましたか?貴方だって真実が怖くて、彼に聞けなかったんでしょう?」
晃の地蔵の言葉は冷たい。優しいけれど、真実をつくのは彼の性格なのだろうか?裕樹は少し悄然とした。
「そうだな…。俺も薄々気付いてたんだ。なのに晃が何も言わないのをいいことに俺は目をつぶってきたんだ。俺にとって都合の悪い事情には…さ……」
(もし彼が18歳だと知ったら、俺はやましい気分になっただろう。それでも俺は彼を抱いたはずだ。性根の汚い人間なんだ。俺は…(
段々と落ち込んできた。そうだ。俺は死んで当然の悪い奴だったんだ)

地蔵の晃はそんな心を読んで、こう話しかけた。
「いい加減に落ち込むのはやめなさい。晃さんは18歳にしては随分大人びていました。色んな苦労のせいでね。でも貴方に会ってからは年相応に子供っぽくなってたんです。そしてそれは貴方だけに見せていたんですよ、彼の18歳の本当の表情を…」
裕樹は地蔵の晃を見た。もしかして今のは慰めてくれたのか?それにしては冷たい口調だが…。
「貴方がどう取ってくれてもいいですけどね。今から晃さんを助けるのに、肝心の貴方が落ち込んでたら何も出来なくなるって事です。チャンスは1回だけ。それを逃したら、晃さんは一生救われないんですから…」
地蔵の晃はつっけんどんに言った。でも何だか裕樹は勇気が出た。
「そうだよな…。もう引き返せないんだ。それに晃を救わないと。それに成功すれば彼はあんな苦労をしなくて済むんだ」
(そして俺とも出会わなくなる!)
実に複雑な未来なのだが、今、何も行動しなければ未来は変わらないのだ。裕樹は自分を奮い立たせた。
地蔵の晃はそんな裕樹を見て、少し表情を和らげた。そしてこう言った。
「貴方、私が晃さんの姿をしてるのがそんなに不満ですか?名前も呼びにくそうだし…」
俺はその質問に苦笑した。
「まあ、正直複雑だけど、大分慣れてきたからそのままでもいいよ。それに現実の晃の姿を見る事はもう無いんだ。そう思えば、例え中身があんたでもありがたいのかもな…」
「あんまり嬉しくなさそうですね。でも他の方の姿を借りるのも大変なんで、許して下さい。それに名前も決めておきましょうか?人前で『地蔵』なんて呼ばれても目立ちますしね」
「『晃』って呼ぶのも貴方は嫌なんでしょう?」
「当たり前だ!」
裕樹は力を込めて断言した。それは晃だけの大事な名前だ。
地蔵は裕樹の心を読んで、苦笑した。少し寂しそうに。
「そうですね。それにこれから本物の晃さんに会うんですしね。では私の事はセイジと呼んで下さい」
「セイジ?」
裕樹は不思議そうに地蔵を見た。
「そう…。晃さんは“日の光”ですけれどね。私は“星の次”です」
地蔵が地蔵らしく古風な事を言ったので、裕樹は笑った。でも星次はそんな事には構わずにこう言ったのだった。
「ほら、あそこの角にある家が晃さんの家ですよ」
裕樹は大好きで大好きで守りたかった晃の事を思い出し、気を引き締めた。

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